第32回家畜人工授精優良技術発表全国大会 特別講演

2.

MPTで繁殖障害の要因を探る

(1)分娩後無発情
 乳牛の繁殖効率は、周産期の生理変化や飼養管理など、さまざまな要因により低下すると考えられています。
 過肥や低カルシウムに関連する周産期病は乾物摂取量を低下させ、泌乳開始に伴うエネルギー不足とあいまって、エネルギーバランスを一層低下させます。それが、卵巣機能を低下させ、発情を抑制することで、受胎率が低下し、ついには分娩間隔延長につながります。したがって、繁殖成績を向上させるためには、これらの問題点を早期に摘発し、それを改善することが重要です。

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 そこで、これらの問題点を早期摘発する指標を得るために、過去のMPT成績を分析しました。
 19901997年の8年間に実施したMPT成績の中から、305日乳量が8500kg以上の牛群を抽出しました。その中から、繁殖障害群として、MPT実施時の乳検成績で、分娩間隔が400日を超え、稟告により、分娩後無発情が問題であった95牛群(2,345頭)、対照の健康群として、分娩間隔が395日未満の55牛群(1,273頭)を用いました。
 なお、両群間で、産次数と日乳量には差がありませんでした。

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指標の定義方法として、ここに計算例を示しますが、この乳期では6頭の検査を行い、上限からは1頭、下限では3頭が正常範囲から逸脱しています。この逸脱頭数、すなわち異常として判定された頭数の検査頭数に対する割合を計算しました。この例では、それぞれ6分の1頭、そして6分の3頭です
 
このようにして求めた『逸脱率』を、繁殖障害群と健康群の両群間で比較しました。また、乳量・乳成分率の推移についても、産次および乳期別に比較し、有意差の認められた項目を要因検出指標としました。また、飼養管理の特徴についても検討しました。

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結果を示します
 蛋白代謝項目では、繁殖障害群は健康群に比べ、貧血、低アルブミン、 高グロブリンの異常率が有意に高く、また、尿素窒素は健康群で基準値上限での異常が多くなっていました。
 これらのことから、繁殖障害牛群では、恒常的な蛋白不足と故障牛が多いことを示しています。

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 エネルギー代謝項目では、繁殖障害群で、削痩、低血糖、低コレステロールの異常率が有意に高く、エネルギー不足に陥っている牛が多いことが明らかになりました。

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 無機物代謝では、低カルシウム、 高リン、 低マグネシウムの異常が、繁殖障害群で有意に多くなっていました。特に、マグネシウムの低下は、飼料の摂取不足によるものと考えられます。
 

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 これは、繁殖障害群と健康群の、乳生産とBCSの乳期別推移を産次別に示します。
乳量は、両群で差がありませんでしたが、乳脂率と無脂固形分率は、繁殖障害群が、全ての産次で高泌乳期を中心に低下していました。
 
またBCSも、高泌乳期で低く、特に、初産、2産では健康群は最盛期に既にBCS増加が認められたのに対し、繁殖障害群では最盛期以降の回復遅れが認められました。
このように、乳成分やBCSの乳期別推移からも、繁殖障害牛群ではエネルギー不足が起きていることが推察されました。

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 以上の結果から、有意差の認められたこれらの項目を、繁殖障害の要因検出指標といたしました。




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