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( 図表等のスライドは、その上でクリックすると、拡大します。)
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はじめに
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北海道NOSAI研修所の木田です。
本日は、このような場所でお話できる機会をお与えいただき、光栄に存じます。
さて、酪農家にとって、繁殖を成功させることは経営の根幹に関わる極めて重要な課題です。そこで、本日は、私の日常業務である乳牛の代謝プロファイルテスト(MPT)を通して、日頃感じている繁殖障害の原因について、その考え方の一端をご紹介します。
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私は、17年前から牛群検診車を用いてMPTを活用した牛群検診を北海道内全域で実施しております。現在までに、2,500戸、7万頭以上の牛を検診してきました。
1週間単位で道内各地に出向し、1日2戸、1週間で6〜8戸、年間では100〜150戸を検診しています。
毎日の作業として、午前9時に1軒目の農場に到着し、直ちに30頭の牛から採血します。その後、ボディコンディションスコアをとり、給与飼料の品質鑑定を行います。引き続き2軒目の農場に移動し、同様の作業を行い、診療所に戻ります。
午前11時頃から、血液検査を行い、併せて飼料計算を実施します。
午後2時頃には、すべての作業が終了しますので、2軒の農家の方にお集まり頂き、事後検討会を開催します。検討会では検診結果に基づいて問題点を確認し、改善方策を提示し、夕方4時頃にはすべてを終了します。このようなことを、ずっとやってきたわけです。
そこで、本日は、MPTの仕組みについて簡単にご説明した後、本日のテーマである、繁殖障害の要因について、MPT成績の分析とNOSAIの診療・死廃事故記録および乳検成績の分析結果を交えて検討し、その予防方策、特に周産期の栄養管理と繁殖の問題、さらにその根幹の問題である粗飼料不足をどのように診断するかについても言及します。
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1.
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MPTの原理
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スライド3
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MPTは、1970年頃、英国のJ. M. Payneにより提唱されました。
その考え方として、乳牛は、飼料を摂取し、栄養分を消化吸収し、蓄積と動員すなわち代謝を経て、排泄、すなわち自らの生存と乳生産および胎児発育などに利用します。この栄養摂取を『入』、生産を『出』とします。乳牛の生産病は、この入と出とのバランスが崩れることにより発症します。
そこで、生産病予防手段として、採食状況については飼料給与診断が行われ、また、乳検成績すなわち乳生産記録の分析も行われておりますが、MPTは、この代謝状態を血液検査により直接診断し、生産病を防ごうというものです。
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スライド4
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すなわち、健康とは、『入』と『出』とが均衡を保っている状態と定義され、このとき、臨床的にはもちろん健康であり、代謝状態は安定し、血液成分値もいわゆる正常範囲内に収まっています。
一方 、生産病は代謝が破綻した状態であり、このとき、牛は、臨床的にも明らかな病気で、血液成分も異常値を示します。
病気の牛は個体診療すなわち治療の対象ですが、MPTは予防獣医療として、外見上健康な牛を対象に血液検査を実施して、潜在的異常すなわち代謝の乱れを検出し、飼養管理を改善して健康な状態に戻すことで、生産病を予防しようというものです。
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スライド5
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一般に、血液検査における正常範囲とは、統計学的に、平均±2標準偏差(SD)、すなわち母集団の95%を含む範囲として定義されます。しかし、この正常範囲は健康か病気であるかを判定するための基準であり、外見上健康な牛を対象としたMPTでは、理論上30頭中1〜2頭のみが異常と判定されることになります。したがって、事実上、診断基準としては使いものになりません。
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スライド6
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そこで、約3万頭の牛の測定値をもとに、平均±1SDをMPTの標準値として設定しました。
この範囲では、母集団の3分の2を正常とし、残る3分の1を異常、正確には標準値範囲から逸脱として判定することになります。
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